問題
質量$M$のエレベータの内部で、質量$m$の物体が床から高さ$h$の位置に、軽い糸で天井から吊るされている。エレベータは鉛直上向きに一定の力$F$で引かれて上昇している。以下の問いに答えよ。
(1) エレベータと物体の運動方程式をそれぞれ記述せよ。
(2) 糸の張力$T$を求めよ。
(3) エレベータの加速度$\alpha$を求めよ
運動中に糸を切ったとする。糸を切った瞬間を$t=0$とし、時刻$t_1$に物体が床に達したとする。
(4) 切った後の物体の速度$v_x(t)$と位置$x(t)$を求めよ。
(5) 床に達するまでの時間$t_1$を求めよ。
解答
座標軸をエレベータの外に設定すると
エレベータに作用する力は、場の力「重力$Mg$」と接触力「糸の張力$T$」「引く力$F$」です。物体に作用する力は、場の力「重力$mg$」と接触力「糸の張力$T$」になります。
従って、運動方程式は
\begin{eqnarray*}
M a_X &=& F - T -Mg \\
\\
m a_X &=& T -mg
\end{eqnarray*}
となります。
(2),(3)
運動方程式の2式の和をとると
\begin{eqnarray*}
M a_X + m a_X &=& F - T -Mg + (T-mg) \\
\\
(M+m )a_X &=& F -(M+m)g \\
\\
a_X &=& \frac{F -(M+m)g}{M+m} \\
\\
a_X &=& \frac{F}{M+m} -g
\end{eqnarray*}
となる。これを物体の運動方程式に代入すると
\begin{eqnarray*}
m a_X &=& T -mg \\
\\
m \biggl( \frac{F}{M+m} -g \biggr) &=& T -mg \\
\\
\frac{mF}{M+m} -mg &=& T -mg \\
\\
T &=& \frac{m}{M+m}F
\end{eqnarray*}
となる。
(4)
糸を切った後の運動方程式は
\begin{eqnarray*}
M a'_X &=& F -Mg \qquad ( \mbox{外の座標軸})\\
\\
m a_x &=& -mg -m a'_X \qquad ( \mbox{内部の座標軸})
\end{eqnarray*}
となります。
糸を切った後のエレベータの加速度$a'_X$は
\begin{eqnarray*}
a'_X &=& \frac{F}{M} -g \\
\end{eqnarray*}
となるので、物体の運動方程式は
\begin{eqnarray*}
m a_x &=& -mg -m a'_X \\
\\
m a_x &=& -mg -m \biggl( \frac{F}{M} -g \biggr)
\\
m a_x &=& -mg - \frac{mF}{M} +m g \\
\\
m a_x &=&- \frac{mF}{M} \\
\\
a_x &=&- \frac{F}{M}
\end{eqnarray*}
従って、物体の速度$v_x$は
\begin{eqnarray*}
a_x = \frac{\diff v_x}{\diff t} &=&- \frac{F}{M} \\
\\
\int \frac{\diff v_x}{\diff t} \diff t &=& \int \biggl( - \frac{F}{M} \biggr)\ \diff t \\
\\
\int \diff v_x &=& \int \biggl( - \frac{F}{M} \biggr)\ \diff t \\
\\
v_x &=& - \frac{F}{M} t +C_1 \qquad (C_1: \mbox{積分定数}) \\
\end{eqnarray*}
となる。初期条件$v_x(0)=0$(初速度なし)より
\begin{eqnarray*}
v_x (0) = - \frac{F}{M} \cdot 0 +C_1 &=& 0 \\
\\
C_1 &=& 0
\end{eqnarray*}
となるので速度$v_x(t)$は
\begin{eqnarray*}
v_x (t) = - \frac{F}{M} t\\
\end{eqnarray*}
となる。さらに位置$x(t)$については
\begin{eqnarray*}
v_x (t) = \frac{\diff x}{\diff t} &=& - \frac{F}{M} t\\
\\
\int \frac{\diff x}{\diff t} \diff t&=& \int \biggl(- \frac{F}{M} t \biggr) \diff t \\
\\
\int \diff x &=& \int \biggl(- \frac{F}{M} t \biggr) \diff t \\
\\
x &=& - \frac{1}{2} \frac{F}{M} t^2 +C_2 \qquad (C_2: \mbox{積分定数}) \\
\end{eqnarray*}
初期条件$x(0)=h$より
\begin{eqnarray*}
x(0) = - \frac{1}{2} \frac{F}{M} \cdot 0^2 +C_2 &=& h \\
\\
C_2 &=& h
\end{eqnarray*}
となるので位置$x(t)$は
\begin{eqnarray*}
x(t) = - \frac{1}{2}\frac{F}{M} t^2 +h
\end{eqnarray*}
となる。
(5)
時刻$t=t_1$において$x(t_1)=0$となるので
\begin{eqnarray*}
x(t_1) = -\frac{1}{2} \frac{F}{M} t_1^2 +h &=& 0 \\
\\
\frac{1}{2} \frac{F}{M} t_1^2 &=& h \\
\\
t_1^2 &=& h \frac{2M}{F} \\
\\
t_1 &=& \sqrt{\frac{2Mh}{F}}
\end{eqnarray*}
となる。
注)
エレベータ内部に軸を設定した場合、物体に作用する力は場の力「重力$mg$」と接触力「糸の張力$T$」と慣性力$m a_X$になります。
よって、運動方程式は
\begin{eqnarray*}
m a_x &=& T -mg - ma_X \\
\end{eqnarray*}
となります。
エレベータ内部では物体は動いていないので、$a_x=0$となり
\begin{eqnarray*}
0 &=& T -mg - ma_X \\
\\
T &=& mg + ma_X
\end{eqnarray*}
と表される。
エレベータの運動方程式$M a_X =F -T- Mg$より
\begin{eqnarray*}
T &=& mg + ma_X \\
\\
T &=& mg + m \biggl( \frac{F-T}{M} -g \biggr) \\
\\
T &=& mg + m \frac{F-T}{M} -mg \\
\\
T &=& m\ \frac{F-T}{M} \\
\\
T &=& \frac{mF}{M} - \frac{mT}{M}\\
\\
\biggl(1+\frac{m}{M} \biggr) T &=& \frac{mF}{M}\\
\\
\biggl(\frac{M+m}{M} \biggr) T &=& \frac{mF}{M} \\
\\
T &=& \frac{mF}{M} \frac{M}{M+m}\\
\\
T &=& \frac{m}{M+m}F \\
\end{eqnarray*}
となり、同様の結果が得られる。